
おじの推薦で、城下町のギルドで就職することになった
アルベルト。
ギルドマスター・ネマヨーテの面接を受けなんかちょっと反則っぽいけど、無事採用された。
採用された日に受け取った資料を読み、初出勤まで覚えることにしたアルベルト。
毎日5時間以上資料を読んで適性審査のやり方や、基準を叩き込んだ。
初出勤日の三日前。
リスター職員管理官から呼び出しがあり、ギルドではなく、城下町の中央エリアにある、冒険者ギルド事務センター。通称・事務所に来るように言われた。
二階建ての木造で、かなり年季が入っている。
入口を開けるとすぐに受付があり…
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
受付の女性職員がきりっとした表情で僕にたずねた。
「あ、あの…城下町西冒険者ギルドのエレーナ・リスター職員管理官からここに来るように呼ばれましたアルベルト・二ックと申しますが…」
アルベルトは緊張で声が上ずっていたが、なんとか言えた。
「あぁ、あなたが…。マスターからお話はうかがっています。階段を上がってすぐにある職員管理室へどうぞ。」
「ありがとうございます!」
アルベルトは、一礼してから階段へと歩いていった。
(頑張れ新人君。今日で退職することにならないようにね…ご武運を・・・)
階段へ向かう彼の背中に向かって彼女はつぶやいた。
階段をのぼると、右に通路があり、進むとすぐに職員管理室があった。
アルベルトは深呼吸してから、扉を三回ノックした。
扉をノックする硬い音が響いた後
「あいてます、お入りください。」
「アルベルト・ニック、入ります。」
スライドドアを左にひいて開けた。
すると部屋の真ん中にギルド窓口にそっくりのセットが組まれていた。
そのセットの前に男性が立っていた。
「ようこそ。事務センターまで来てもらってすまないね。」
「アルベルト・ニックです。よろしくお願いします!」
「事務センター、業務実践担当官を拝命している、
ミルトン・リスターだ。君が働くギルドにいるエレーナ・リスターは、妹だよ。君を実践訓練受けさせてやってほしいと連絡を受けた。
マニュアルは読んだかい?」
「はい、だいたいのことは頭に入れてきました。」
「よし。じゃあ、早速やってみようか。僕が審査を受けに来た人を演じる。君は本番さながらに対応してみてくれ。」
「承知しました。」
ニックは、受付側に入って座った。
リスターの合図で訓練スタートした。
『はじめ!』
ニックは、窓口から…
「次の方、どうぞ。」
「はいよ~」
リスターは、ニックの反対側の椅子に腰掛けた。
「申請書と、適正診断書をこちらにお出しください。」
ニックは、提出を促した。
「ほらよ。頼むぜにいちゃん。」
くっしゃくしゃになってた申請書をニックはきれいに伸ばして、確認を始めた。
しばらくして読み終えると…
「ええっと…エミオンさん。申し訳ありませんが、こちらの申請書に不備があります。」
ニックは鉛筆で記入不備の部分に薄く丸を書いていた。
「ああ?何が不備なんだ?ちゃんと書いてるじゃねーか!」
「いいえ、この部分。本来、〇〇についてご記入いただかないといけないのに、エミオンさんは✕✕について書かれている。
書き直していただきますか?」
「は?これはこれであってるだろうが?どこに◯◯を書けって記してある?どこにもないじゃねーか!」
(リスターさんの演技、迫真すぎる…でも押しまけたらだめだ…)
「エミオンさん。たしかにこの用紙にはその説明は書いてありません。ですが、この用紙を記入されたとき、担当したものが、口頭で説明していたはずです。この用紙は記入がややこしい部分がありますので、審査前に記入に関する説明を必ず実施しています。」
「ふざけんな、知るかそんなもん!」
「そうですか…記入訂正していただけないのであれば、本日の審査はこれまでとさせていただきます。後日、再び説明会を受けていただき、再申請をお願いします。ご苦労さまでした。」
「な、な、なめるんじゃねえぞてめぇ!」
窓口から手をつっこみ、ニックの胸元を掴んだ。
すると、ニックはエミオン、もとい、リスターの目をじっと見つめて何かをつぶやいた。
「うわぁ!?」
リスターは、悲鳴を上げてニックの胸元を掴んでいた手を離し、後ろに下がってすっ転んだ。
「以上です。ありがとうございました。」
ニックは立ち上がって頭を下げた。
………
「はい、お疲れ様。ここまでです。」
「あ、ありがとうございました!」
「まず、聞きます。威圧的な態度で攻めても一切動じませんでしたね? あれはなぜですか?」
「はい。ああいった人への対応は、こちらが動揺した態度をしてしまうと、ますますつけ込むおそれがありますから…
ここは冷静に対応しました。」
「なるほど。もう一点。脅しのつもりで胸ぐらつかみましたが、あなたは返さず、何かをしましたね?あれは、何をしたんですか?
長くこの担当をして、このカスハラ人物役をやって来ましたが、あんなふうになったのは初めてです。」
「あぁ…あれですか。威圧の気を放ちました。退け、退けと念を込めて放ちます。叔父に教わった技みたいなものです」
「そ、そうですか、オリハルコさんの…。通りで…」
(威圧とかいうレベルではなかった。あれは殺気に近かった。)
「おっほん、それじゃあ、普通の申請者がきた場合の対応もみさせていただきますね。」
そのあと、ニックの対応を見極めるため、2時間ほど、いろんなパターンをやってみた。
少し戸惑ったところもあったが、自分で乗り切っていた。
・・・
「はい。お疲れ様でした。」
「リスターさん、ありがとうございました!」
「審査結果はギルマスが初日に伝えるからそこで評価をきいてね」
「はい!ありがとうございます!」
ニックは、何度もお礼を行った後、部屋をあとにした。
リスターは彼が帰ったのをみて、すぐその足で城下町西冒険ギルドへ向かった。
……
リスターは、ギルドマスターに報告にやってきた。
「ギルマス、アルベルト・ニックくんの窓口業務の試技の採点結果です。」
「おー、ご苦労さん。どうだった彼は?」
リスターに渡された評価表に目を通しながら尋ねた。
「はっきりいって、彼は『ギルド職員になるために生まれてきたかのような適性の持ち主』である、と僕は考えます。
素人とは思えない対応、柔軟性、脅しにも怯まない強靭な心、そして叔父ゆずりの気迫。正直、冒険者になったら面白いんじゃないか、
と思ったぐらいですよ」
リスターは率直な感想を述べた。
「ふぅむ…なるほど…。オリハルコさんが推挙するはずだ…」
評価表を見終わったネマヨーテは、真剣な眼差しで…
「リスター。これだけは覚えておいてくれ。彼を冒険者には絶対にならせないように。」
「え?それは…?」
「いいか。オリハルコさんから事前にきいていた話だが…」
……
オリハルコからの手紙にその理由が記されていた。そのことをリスターに伝えた。
リスターは血の気が引いた。
「わ、わかりました。絶対にならせません。」
「うむ。理由だけは他言無用だ。オリハルコさんから、その才に気づいたものだけには話していいと書かれていたからな。」
……
ギルドから紹介してもらった下宿先は、城下町にある小さい宿屋だった。
ギルドから徒歩五分ほどのところにあった。
「ただいま帰りました。」
「おかえりー。部屋に戻る前に、今日の晩御飯、選んでから行ってね〜」
「りょーです!店主さん!」
彼はこの宿屋な店主。ラフォードさんである。
元城の兵士を務めていたらしい。
食堂の入り口に置かれたボードに今日の晩御飯のメニューがあり、焼き魚定食、焼肉定食、温野菜とスープご飯付きの3種類が書かれていて、
その名前の下に指をつけると、微量の魔力を認識して、名前が刻まれる。
これは店主にだけわかるようになっている。
「うーん…」
しばらくボードの前で考えていたら…
「二ックさん、邪魔!」
後ろから女性の声が聞こえて、すぐに避ける。
ニックが横に移動すると、声の主は、ボードをポンと触った。
メニューを押していくと、さっさと部屋に戻っていった。
彼女はアリアナ・ユスティナ。同い年で同じ村出身。
ただ、村では話したことはなく、学校も別だった。
魔法学校に通うため上京してきたらしい。
「今日もちゃんと話せなかったなぁ…。」
落ち込みながら、アルベルトは、焼き魚定食を押して、部屋に向かう。
部屋に戻ると、冒険者・兵士および全ギルド職員防護会から申請書が届いていた。
この世界の決まり事で、冒険者や兵士、そして各ギルドに所属する職員は、回復協会で一度だけ、魔物との戦闘で敗れ、殺されてしまった場合、
もしくは、ギルド職務上でなんらかの事件、事故でなくなった場合、復活することができる。
二回目以降は、特別な許可、審査もしくは復活料金を支払うことでまた魔法をかけてもらえるのだが…
もちろんギルド職員になった彼も対象であり、封筒に入っていた、復活魔法付与紙を身体に一度貼ることで復活魔法が付与される。
付与されると、左腕のどこかに魔法文字が浮かび上がる。
復活の付与は、不正で得ることはできず、仮にその紙を奪っても発動しない。どういう細工がされているのかは誰も知らない。
説明書き通り、付与紙を右腕に貼ると、魔法が発動し、左腕によくわからない紋様が刻まれた。
ちなみにこれは回復協会の上級魔術士か、本人しかその紋様はみえない。
これで、いいかな?
鏡で確認したら、きちんの紋様は描かれていた。
説明書き通り、使った付与紙は白紙になった。使用できた証らしい。
アルベルトは着替えを済ませ、食堂へ向かった。
ほかの部屋の人たちはもうほとんど食べ終わっていた。
「アル!あんたの分できてるよ。」
食堂で働いているのはレイカ。宿主ラフォードさんの妹である。
「ありがとうございます、レイカさん!」
アルベルトはしっかりお礼をいってから受けとった。
美味しそうに食べてる姿を、カウンターから眺めるレイカ。カウンター越しにラフォードが立って…
「あの子、ギルド職員、合格だってさ。たいしたもんだよ。おじさんの推薦でいきなりギルドへいって、職員になれ!だからなぁ。」
「そうなの?てっきり普通に上京してきたのかと…」
「アルベルトくんのおじは、…オリハルコ・ニックだ。おまえさんなら、知ってるだろう?」
「なっ!?オリハルコさんの甥っ子??そう、アルベルトが…」
レイカは少し思うところがあった。。
(見い出すのが得意だったオリハルコさんだったけど…どうして、アルベルトはギルド職員だったのだろう?)
黙々とご飯食べるアルベルトを見守るふたりだった。
アルベルトはごはんを食べ終わると、一階にある風呂場にいき、入った。
それほど大きな宿ではないが、きちんと男女別々の風呂場がある。二階には女性用である。
アルベルトは、体を洗ったあと、風呂につかった。
洗えるスペースがあり、あとは床を掘り下げてきれいな石で加工された風呂部分がある。
魔法装置で加熱されたお湯が出てくるようになっている。
城下町には魔力線と呼ばれる魔力が通る管があり、そこを通って街中に供給されている。(こちらでいう、電力と同じ)
数十万人住んでるこの城下町の魔力は、魔力庁が管理している。
魔力庁が各地に魔力所を設置してそこから、魔力を供給している。魔力をどうためるのか、公表されたことはない。ないのだが…
レイカは知っていた。魔力を蓄積させる装置に、充填している人物と、その方法を…。
あれを見ると絶対、魔力が家庭で使える喜び、薄れると思う。
食堂の片付けをしながらため息をつくレイカ。
「さあ…て。明日の何がいいかしらねぇ。たまには麺類もいいかも…。」
アルベルトがゆっくり浸かっていると…
「おっ?アルくんじゃん。」
風呂に誰か入ってきた。
「あ、どうも。こんばんはです」
アルベルトは、挨拶を返した。
「僕もうあがりますんで!どうぞー」
そういって、彼が体を洗っている間に譲った。
「サンキュな〜アルくん」
彼の背中には斬られた傷跡がくっきり残っていた。
彼はルーカスさん。元冒険者で今は警備会社で警備兵をしているらしい。まだはじめて会ってから数回ほどしか話してない。
着替えて、部屋に戻ろうと脱衣所を出たら…
「ん?きみは…はじめまして、だな。」
女性冒険者がちょうど帰ってきたところだった。
「あ、はじめまして。先月末から下宿させてもらってます。アルベルト・ニックです。冒険者ギルドで働くことになっています。」
「なるほど。君がラフォードさんがいってた子だね〜。あたしは、レーラ。レーラ・アービングさね。よろしくね。」
通り過ぎながら、アルベルトの肩をぽん、と軽くたたいていった。
「アービング?どこかで聞いたことある名前のような…」
アルベルトは、考えながら部屋に戻っていった。
レーラは自室に入ったあと…
あの子の肩…これからギルド職員になるような雰囲気じゃないな…筋肉ががっちりしていて、肩もかなり発達していた。
いったいどんな訓練してるんだろうか
でも…どこかできいた名前のような…?
お互いなにかひっかかるようだった。
……
あっという間に数日が過ぎて・・・
アルベルトは、普通に出勤しはじめた。
まずは、ギルドマスターの部屋を訪れた。
「おはようございます、ギルドマスター。ニックです。」
「あいとるよ、入りなさい。」
アルベルトが部屋に入ると…
「うむ。制服も似合っているじゃないか。オリハルコさんに見せてやりたいな」
ギルマスは、なんだか嬉しそうに笑いながら、書類にサインをしていた。
「話は聞いた。君はすでにベテランの域らしい。まったく、オリハルコさんは、おまえさんの才能に気づいていたのかねぇ?」
「叔父が、僕のことを…?いや…それは(汗)僕の対応もたまたまうまくいっただけですし…」
「まあ、とりあえず、だ。今日はミーナ・ルシティアの窓口に入りなさい。彼女の応対を見て、いろいろ学ぶといい。」
「承知いたしました。マスター。」
アルベルトは、深々と頭を下げた。
「ま、肩に力を入れすぎず、ぼーちぼちやりなさい。」
「はい、頑張ります。」
そしたら、これを…
ギルマス ネマヨーテは、アルベルトの制服に、
冒険者ギルドのピンバッジをつけた。
「アルベルト・ニックくん。ようこそ、冒険者ギルドへ。」
こうして僕は、正式にギルド職員になったのだった。
いきなり推薦されてギルド職員になった僕は、
今日も窓口業務して、冒険者たちをクエストで走らせます。
業務記録No2『ようこそ、冒険者ギルドへ』
書き物4 ~あとがき~

