
僕はある分岐点にたどりついた。
右か?
それとも
左か?
………
いや、そういうんじゃなくて
冒険者になるか?
それとも
町で働くか?
………
うん、そういうのも違う
じゃあ…
なんなのか?
冒険者支援員になるか?
それとも
ギルド窓口職員になるか?
………
そうそう。これである。
【アルベルト・ニック、17歳】
叔父に推薦してもらい、城下町にある冒険者支援所…
「冒険者ギルド」って言った方がわかりやすいかな?
そこでこの春から働けることになり、まず適性検査面接、というのを受けることになった。
2月に故郷から出てきて、この城下町に引っ越してきた。
住むところもギルドからの紹介で決まり助かった。
で…城下町にやってきてすぐ、その面接を受けに来たってわけなんだけど…
いきなりトラブルである。
「うーん…大恩人ニックさんから紹介だったし…まあ、新しい戦力も欲しかったところだったんだが…今どこの担当も埋まっててよ。」
自分の向かいに座ってめっちゃ困った表情を浮かべながら話してる、おヒゲがお似合いなおじさん。
冒険者支援所(冒険者ギルド)所長、いわゆる『ギルドマスター』である。
【オットー・ネマヨーテ】
大恩人というのはうちの叔父さんのことである。
名を『オリハルコ』という。
冒険者階級・一級でかなり強い、らしい。
「あの…なんか、すいません。うちの叔父が無理に頼んだみたいで…」
村で畑作業の手伝いをしていたんだけど、ある日いきなり叔父さんから手紙が届いて、ギルド職員に推薦しといたから!と書かれていた。
すでに期日まで書かれていて、2月末までに上京して、ギルドで面接受けるように!と荒々しく手紙には書かれていた。
「いや、それは気にしなくていいんだよ、えっと…アルベルトくん。君の叔父さん、オリハルコさんはね、そりゃあもう、うちのギルドではかなり優秀な冒険者でね。どれだけギルドの大変なクエスト、受けてくれてきたか…。」
「そう…なんですか?」
そう言われても正直あまりぱっとこなかった。
叔父から聞いていた話とはちょっと違ったからだ。
冒険者なのは知っていたけど、どれだけ優秀だとか、強いんだとか、まったく知らなかった。
うちの父 チタム・ニックは農家兼村の警備兵である。
普段は農業をしているんだけど、たまにまよいこんでくる魔物を退治したり、盗賊を倒したりする、村の警備兵のひとりである。かつて叔父は、その隊長だった。
村からそれほど遠くないところに、駆け出し冒険者たちが必ず一回は来る、魔物が棲む洞窟がある。
そこに行く冒険者たちは僕らの村で武器や防具、携帯品などを揃えて挑む、いわゆる冒険初心者向けの村なわけなのだけど…
僕がまだ6歳のとき。その洞窟に魔物が普段より多く発生する気配が見られて、冒険者たちが多数、怪我をして村に戻ってくることが増え始めたんだ。
だんだん魔物たちは、村の周りにまで現れ始めて、父チタムと叔父さんは、冒険者ギルドに依頼を出したんだ。
23人からなる冒険者がやってきて、洞窟の調査に向かったら、魔物が活発に発生し溢れ出てくる『スタンピード』が確認された。村の警備隊である叔父オリハルコと数名は、案内と手伝いも兼ねて参加した。
彼等によってなんとか抑え込むことに成功はしたんたけど、村に大被害が出た。
あふれ出ていた魔物たちが暴れ、
田畑は荒れ、家も壊され、多数の負傷者も出る事態となった。なんとか村にのこっていた警備隊のメンバーにより村に来ていた魔物たちを討伐することができたのだった。
叔父さんは、こんな事態が二度と起こらないようにと村で農業だけでなく、戦士や魔法使いの育成を始めて、村だけで自衛できる力を持とうとしたんだ。
それから3年ほどで村の警備隊は、警備団と呼ばれる組織になって、かなり腕に自信のある団員たちが所属するようになった。
でも村では戦いを知ることなく、農家として暮らしてきたものたちがほとんどだったのに、オリハルコが村を戦力強化して、別の争いを生むことにならないか心配して、
反対する声も多くて。父は、叔父が進める村の防衛強化策を責めた。
そしたら叔父はもう村は十分魔物の襲撃に耐えれる戦力が備わったから大丈夫だ、あとはチタムにまかせるよ、と言って、村を出ていってしまった。
出ていく前に叔父に、警備団の運営費などもギルドの仕事で得たお金を入れていたことを教えてもらった。
いつも、こっそりいろんなギルドのクエスト話を聞くのが楽しかった。
そした、叔父はいった。
「おまえは将来、ギルドで働きなさい。いろんなクエスト見られるかもしれんぞ?」
そう言って別れたのが十年前である。
…という話をギルドマスターに説明した。
「そうだった…初心者ダンジョンのスタンピードなんて見たことも聞いたことなかったから、あの時は焦ったんだよなぁ…。あの時、うちからいった冒険者たちにニックさんたちも加わって、洞窟に溢れた魔物たちを倒したんだよ。自信をもって参加した冒険者ばかりだったが、案内役を兼ねて参加したニックさんがあまりにも強くてなぁ」
ギルドマスター・ネマヨーテは苦笑いしまくりだった。
「ネマヨーテさんは行かれたんですか?」
「おうよ。当時はおれも職員兼冒険者だったからな!おれは冒険者のまとめ役として、ギルドから派遣されたんだよ。あぁ、あと名前呼びにくいだろ?俺のことはギルドマスターって呼んでくれたらいい」
「わかりました、ギルドマスター」
「うむ。それで、だ。俺達23人、洞窟に向かって、現地でニックさん…いや、オリハルコさんと合流したんだ。彼率いる警備隊も加わって、臨時討伐隊を結成。大量発生した魔物の一斉討伐作戦を行うことになった。
うちのギルドからの冒険者パーティーは、6つ。
彼らのほとんどがベテラン冒険者だったが、いくら初心者ダンジョンとはいえ、多勢に囲まれたらひとたまりもない。だから、引き上げるタイミングと撤退合図のすり合わせを綿密に行ってから作戦開始した」
ギルドマスターは、当時の戦況を今見てきたかのように話してくれた。
まあ、簡単にまとめれば、6時間で殲滅に成功した。
スタンピードの際、必ずと言っていいほどに、強個体が出現することは知られていた。
俺達冒険者パーティーに強個体討伐をオリハルコさんは頼んできてな。もちろん俺達が請け負うことになった。
4パーティーが先行しつつ、周囲警戒しながら戦ってくれた警備隊、そして、疲労がたまった、待機してるパーティーと交代しつつ、殲滅していった。
倒した数は200は超えていた。
しかしどのパーティーにも疲労が隠せなくなった。
それでも進むしかなく、ダンジョン最深部に到達した。
本来、ダンジョンボスがいるんだが…そこにいたのは…
「ば、ばかな…ありえない!初心者向けのダンジョンだぞ…」
深部にいたのは、モンスターランクB。
『デーモンソードマスター』だった。
こんなところにまずいるわけがない。
本来デーモンたちは、魔物たちの上位個体。
初心者が、入るダンジョンなんかにいたら、初心者殺しにしかならない。だからわかないのがあたりまえ、ということになるわけだが…
ギルドの強いパーティに頼んではみたが、デーモン族では話が違う。
ベテランの2級冒険者でも、返り討ちにあう可能性がある。
あまり時間をかけすぎると、また魔物が再出現する可能性があり…最深部の前で、全パーティ集結。
全パーティによるアライアンスを結成。
対デーモンソードマスターの作戦会議をした。
さすがベテラン揃いというべきか。敵対心をそれぞれのパーティで管理。大ダメージを与える際はなるべく同タイミング。ターゲットがはがれにくいときは、最大火力を持つ、ネマヨーテのパーティが火力攻撃を実施。タゲはがしにかかることに。
警備隊は後方からの遠距離攻撃、もしくは各パーティへの回復をメインで担ってもらうことになった。
「…と準備万端!さあ行くぞ!と踏み込んだんだよ。俺たちは。そのあとどうなったと思う?アルベルト」
「えっ…?激闘の末、討伐…じゃないんですか?」
「ま、それが正解なんだけどな…それは最終的な結果であって。実際は…」
………
最深部に突入して23分。
AパーティからDパーティ戦闘不能。警備隊の回復担当に回復を受けていた。
EとFパーティ、そして警備隊で戦闘を続けていた。
「こんな馬鹿なことが…」
ネマヨーテは体中を斬られ出血し、ふらふらしていた。
そんな中、ひとりの女性冒険者は言った
「デーモンソードマスターじゃなくて、アークデーモンなのでは?」
と…
アークデーモン。デーモン族最強の最上位種。
モンスターランクAである。
「ば、ばかな… 見た目はどうみてもソードマスターだぞ!?」
ネマヨーテも確認した。見た目はソードマスターだ。
すると、ついに彼が前に出た…
「おい!あんた、なにやってんだ!警備隊は回復作業に専念してくれ!」
ネマヨーテのパーティメンバーが足を負傷し、地面に倒れながら声をかけた
いまでもはっきりと覚えている。
彼の勇ましい背中を。
これまでも戦闘に加わっていたはずなのに、一切負傷している気配がない。
「オリハルコさん…」
ネマヨーテは声をかけた。
「大丈夫。オレが時間稼ぎしますから。みなさんは回復を。」
「あと、こいつ…デーモンソードマスターでも、アークデーモンでもありませんよ?」
「姿をわざわざ偽って戦い姿…あんた…デーモン族の中でもかなりの上位個体だとお見受けするが…なにものだい?」
オリハルコの問いに、デーモンは動きを止めた。
「ほう…ソードマスターのふりをして戦っていることまで気づくとは…おまえ、人間にしてはやるな?」
姿がかわり…妖艶な女性型デーモンが姿を現した。
「我が名は【ベルゼビューナ】、デーモン族上位種にして、魔王様の側近のひとり。」
指を鳴らすと、その隣から本物のソードマスターが出てきた。
「さすがにワタシが相手するのはルール違反よね。ここ、初心者向けダンジョンなのに、理にも反するし…」
ベルゼビューナと名乗ったデーモンは苦笑いしつつ…
「まあ、いいわ。あとのことはこの子にまかせるわ。人間。ちょっとは楽しませてもらったから教えておくわ。」
「この子を倒せたら、あなたたち人間のいう「スタンピード」は止まるわよ?さあ、楽しみなさい。」
投げキッスをしてからベルゼビューナは姿を消した。
それからはもう必死で。戦えるメンバーで全力で戦った。
みなの執念が勝り、なんとかデーモンソードマスターを討伐した。
ダンジョンにはいわゆる「魔物がわき出てくる場所」があって、【スタンピードはそこから本来とは違った速度で大勢で出現する。】
魔物が倒されて、ある一定の時間の経過、
もしくは、ダンジョン内の魔物の出現数がある一定数以下になった場合。本来、魔物が出現するようになっている。
スタンピードによって、結局このダンジョンに棲む魔物の実に12倍は出現していたことに。
デーモンソードマスター討伐後、このダンジョンから感じた異常なオーラのような、なんともいえない空気感は感じなくなった。
オリハルコさんは見事にファイナルアタックを決め、討伐したんだよ。冒険者登録をしてない人が上位個体を倒した歴史的瞬間だった。
負傷者全員という状況だったが、誰一人欠くことなく、帰還することができてよかった。
「へぇ…あのときそんな事があったんですね…」
「ほんとすごい経験だったよ。デーモンの上位種と会って試合終了かと思ったよ
あのとき討伐に参加したメンバー数人、あれがトラウマになってな…冒険者を辞めたやつもいる。
それぐらい、ベルゼビューナという魔物、恐ろしかったよ…」
「まあ…そんなことがあって、だ。オリハルコさんは、冒険者になって、2年でギルド階級一級になるスピード記録。
本当にすごい人だよ」
ギルドマスターはうんうん頷いた。
「あの… それで僕はどうすれば…?もし…空きがないんでしたら…」
と僕が言いかけたとき、ギルドマスターは…
「あ!いや、それは大丈夫。」
数秒だけ考えて…
「…うん、よっし!決めた!アルベルトくん。君にはどちらを選んでほしい。」
冒険者支援員になるか?
それとも
ギルド窓口職員になるか?
ギルドマスターの声が大きいから聞こえたのか、ちょっとギルド内が、というか、職員たちがざわついた。
「ちょ、ちょっとギルマス!新人に冒険者支援員も、窓口業務も厳しすぎます!
数年ここで働いた子でも、その2つの業務に異動したら、だいたいへこたれるか、疲れまくるんですから…」
異議を唱えたのは、このギルドの窓口業務と支援業務を監督、指揮する、【エラーナ・リスター、27歳】。
みんなには、エラーナさんか、マネージャーと呼ばれてる。サイドテールがお似合いのお姉さんだ。
「せめて、1年は研修期間を設けてクエスト発注書類管理からですって!」
エラーナは懸命にギルマスを説得した。
しかし…
「あまいっ!あまいぞ、エラーナくん!!彼のこと、君はいったい何を知っている?ん?」
「ええっ!?逆ギレ?いや、名前も知らないですけど…」
ギルマスの勢いに少し押されるエラーナ。
「彼の名前は、アルベルト・リック!
我がギルドのエース冒険者がひとり、【オリハルコ・ニック】の甥っ子。ギルド検定試験、事前にこっそり受けさせたら、
917点を叩き出した、まさにギルド職員期待の星!・・・になる予定だ!」
「な!な!?あのちょーむずギルド検定を900点オーバー??」
きょとんとした顔でこちらをみているアルベルトを思わず睨みつける。
「ギルド規定でもし、900点超えの場合、どういう待遇になるか、君が一番知っているだろう?」
「う!そ、それは…」
(1000点満点のギルド検定試験。いわゆる採用試験である。名前の通り、冒険者ギルドに関わることばかりが出題される。かなり難しいことは有名で、
各ギルドの中でももっとも難題が多いとされる。特に、採集クエストについての問題が薬草や木材、鉱石や魔物素材まで多岐にわたるものがあり、
覚える名称も多い)
ちなみに、エレーナはギルド始まって以来、最大得点980点を得ている。
そんな彼女は最初から主任となり、窓口業務の取りまとめ役を務めていたのだ。
が、しかし…エレーナは言い返す。
「ギルマス!今、窓口も支援も、全役職いますし…ここはやはり研修生から…」
「大丈夫だ、エレーナ。彼には、まず、適性審査窓口の審査官からやってもらう。
最近、少し審査が甘いのではないか、と軍からもお達しがきていたから、審査官を増員してやってもらおうかと…」
適性審査官は、冒険者としてやっていけるのかを審査する担当官のことである。
適性審査には、いろいろ項目があり、これまでひとりで行っていたため、時間がかかってしまっていた。
だからといって簡単に担当官を増やすことはできなかった。なぜなら、相手を見抜く力が要求されるからである。
冒険初心者のうちは、それほど危険なクエストはないが、
上位クエストになるにつれて、内容も難しく、場合によっては死傷者も出ることがある。
だからこそ、本当冒険者に向いてるのかをきっちり判断することが重要なのだ。
「いやいやいや…ギルマス。私の話聞いてます?
テキシン!?さらに難易度高いのまかせてどうするんですか!テキシンなんて、ここに勤めて十年超えのギルドメンバーが歴代ついてきた役職ですよ?
それなのに…初心者に任せるだなんて…優秀な教育係でもいないと…」
と、エレーナが言った瞬間、ギルマスは、『よし!』という表情をしたのを隣で見ていたアルベルトは見逃さなかった。
「うーん…たしかにそうだ。新米窓口、ましてや適性審査官となれば、より繊細な作業、審査が求められる!そこで…だ。」
ギルドマスター・ネマヨーテは、いつになく真剣な表情で言った。
「エレーナ・リスター。君を本日付で、冒険者ギルド業務マネージャー兼職員管理官を任命する。
これまで通り、窓口業務の指揮、監督をしつつ、各業務の未来のエキスパート育成のため、新人ギルド職員の指導も行ってもらうこととする。
この件に関して、職員の挙手もしくは拍手をもって決定とする。」
誰も迷うことなく拍手。
「なっ!?ま、まさか…」
エレーナは、ギルマスに完全にはめられたことに気づいた。
最初から新人の教育係にするつもりだったのを、わざと遠回りにして、断る道を断たれた。
「そしたらアルベルトくん。君の初出勤は、来月からだから、残り10日。いろいろ準備やら、街になれるやらしといて。
以上、散開!はい!みな業務に戻って!」
…ってなわけで、僕…アルベルトは、来月から冒険者ギルドで働くことになった。
帰り際、女性職員さんにマニュアルを渡された。
「はい、後輩くん。これ適性審査官の資料ね。」
どういうふうに審査するのか、申請書の見方や、面接での話し方などいろいろ詳しく書かれていた。
「初出勤までに全部目を通しておいてね。たぶん、初日から審査官として入ることになると思うから。」
「あ、はい!わかりました!アルベルト・リックです。」
よろしくお願いします。きちんとおじぎをして挨拶をした。
「あ、これはご丁寧に。私は【ミーナ・ルシテイア】よ。よろしくね。」
こうして、僕はおじさんに推薦してもらって…
城下町西冒険者ギルド所属のギルド職員になった。

書き物3 ~あとがき~

